糖尿病の治療薬は近年、急速に進歩しています。2型糖尿病治療薬として承認され、2020年発売の「オゼンピック」はダイエット注射、2021年発売の「リベルサス」は痩せる飲み薬などとして、ダイエット薬としても話題になったので、糖尿病でない方もご存じかもしれませんね。そして、今春(2023年4月)に「マンジャロ」という糖尿病治療薬の期待の新薬が登場しました。これまでの糖尿病治療薬とは異なるレベルの治療効果が得られると、大きな期待が寄せられています。世界初の薬とはどんな薬なのでしょうか?今日は糖尿病の薬についてお話したいと思います。
★注意★日本ではあくまでも糖尿病治療薬として承認されていますので、ダイエットを目的として使用する場合には自由診療(全額自己負担)となります。だからといって、個人輸入すると品質・安全性・有効性が確認されていない粗悪品の可能性が高く危険です。また、副作用発現リスクを抑えるために用法用量、服用の方法については医師の指示が必要です。必ずクリニックや病院などで医師の処方を受けましょう。
◆ 糖尿病とは?
糖尿病は、血液中にブドウ糖という糖(血糖)が増えてしまう病気で、糖尿病の中でも9割を占めるのが、2型糖尿病。本来人間の身体にとって活動するためのエネルギー源であり必要なブドウ糖ですが、膵臓で作られるインスリンの量が不十分なインスリン分泌不全や、インスリンの機能が十分に働かずインスリン抵抗性が高い状態になると、ブドウ糖は細胞には取り込まれず、血液中に糖があふれてしまうのです。そのような血液中の血糖濃度が高い状態を糖尿病と言います。そのまま放置すると、血液の粘度が高くなって、血管内をスムーズに流れにくく血管が詰まりやすくなったり、傷つきやすくなったりと血管に関係する病気のリスクが高まり、命にかかわる病気に近づくということになります。
◆ 糖尿病の薬
糖尿病の飲み薬は、血液中に糖があふれないようにするための作用で、大きく3つに分けられます。
◎インスリンの分泌を促す薬
膵臓のβ細胞(ベータさいぼう)に働きかけてインスリンを出しやすくする、インスリン分泌低下を補う薬。
スルホニル尿素薬、速攻型インスリン分泌促進薬、DPP-4阻害薬、GLP1-受容体作動薬などがあります。中でもDPP-4阻害薬とGLP1-受容体作動薬は血糖値が高いときにインスリンの分泌を促し、血糖を下げるので、副作用である低血糖が起こりにくいとされています。
ダイエット効果が得られる瘦せ薬(自費診療)としても広く知られている、飲み薬のリベルサスや、注射薬のオゼンピックもGLP-1受容体作動薬で、GLP-1には食欲を抑制して食事の量を減らす効果もあります。
◎インスリンを効きやすくする薬
肝臓から糖の放出を抑える、インスリンに対するからだの感受性を高めるなどの作用によって、血糖値を下げます。ビグアナイド薬、チアゾリジン薬等のインスリン抵抗性改善薬があります。
◎糖の吸収や排せつを調節する薬
食べ物の糖の吸収速度を遅らせ、食後血糖な急な上昇を抑えるα-グルコシダーゼ阻害薬や、身体に取り込んだ余分な糖を尿と一緒に排出するSGLT2阻害薬などがあります。
◎その他、異なる作用を組み合わせた配合薬もあります。
◆ 期待の新薬マンジャロとは?
では、期待の新薬マンジャロは、どんな薬でしょう?マンジャロはGIP(インスリン分泌刺激ポリペプチド)とGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)の2つの受容体に作用する、世界初の持続性GIP/GLP-1受容体作動薬。週1回の注射薬ですが、作用が長続きするように改変されており、これまでに日本で使われてきた糖尿病治療薬の中で、体重減少効果が最も高いとされています。
GLP-1受容体作動薬は、血糖値が高い時にインスリンを出しやすくする薬で、食欲抑制の効果も得られる薬でしたね。では、GIP受容体作動薬とは何でしょうか?GIPはインスリンの分泌だけではなく、グルカゴン分泌を促進する働きがあります。「えええ??グルカゴンは血糖値を上昇させるホルモンでは??」「GLP-1でグルカゴンの分泌を抑えているのでは??」と驚かれる方もいるかもしれませんが、最近では、グルカゴンの機能が非常に複雑であることが理解されつつあります。血糖値と連動して血糖値が高い時にインスリンの分泌を促し血糖値を下げる働き、脂肪を分解してエネルギー消費を増加させる働き、食欲を抑制して食物摂取量を減少させる働きをするグルカゴンは、抗肥満ホルモンと考えられているのです。マンジャロは、世界で初めてGIP とGLP-1という2つの受容体に作用する糖尿病薬、体重減少効果も高く期待されているわけです。
実際に日本での臨床試験データでは、HbA1c(※¹)の低下・体重減少において、GLP-1受容体作動薬のトルリシティやオゼンピックと、GIP/GLP-1受容体作動薬のマンジャロの比較で、マンジャロの方が顕著に優れているという結果が確認されています。これまでの糖尿病治療で、HbA1cや体重のコントロールが難しかった方はマンジャロへ切り替えも検討して良いかと思います。
※¹・・・HbA1cは糖化ヘモグロビンがどのくらいの割合で存在しているかをパーセント(%)で表したもの。赤血球内のタンパク質で全身に酸素を届ける働きをするヘモグロビンが、血液中のブドウ糖とくっつくと糖化ヘモグロビンになります。糖化ヘモグロビンの寿命は120日と言われており、過去1~2ヶ月の平均的な血糖値の状況を判別する指標として用いられます。血糖値と違って、直前の食事の影響を受けません。
◆ 肥満予防で糖尿病予防
生活習慣病の一つである2型糖尿病にならないためには、体重管理、肥満予防は大事です。健康的な体重を維持するために、規則正しい生活と、過食は避け糖質は控えめにしたバランスの良い食事と、適度な運動を心がけましょう。ただ、日本人は欧米人と比較してインスリンの分泌が少ないため、肥満とまでいかなくても糖尿病になることがあります。遺伝や体質による場合も多いので、親族に糖尿病患者がいる人、そうでない人も糖質や脂肪の多い食事は控えめにしましょう。また、2型糖尿病のリスクを高める要因となる喫煙、肥満や高血圧を引き起こす過度の飲酒を控え、ストレスを溜めないように気をつけることも重要です。定期的な健康診断も忘れずに行い、早期発見に努めましょう。
当院には生活習慣病外来がありますので、まずはご相談ください。
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