ニュースでも大々的に報じられ皆さんもご存じかと思いますが、2023年6月7日、大阪市が麻しん(はしか)患者の発生に伴い注意喚起を行いました。麻しん(はしか)患者が感染可能な期間に大阪市内の施設、天王寺ミオで不特定多数に接触した可能性があるためです。5月22日に施設を利用した人で3週間以内に麻しん(はしか)のような症状が現れた場合は、事前に医療機関に連絡をした上で受診するよう、また施設や店舗には問い合わせをしないようにとしていましたが、幸いにも最大潜伏期間の6月12日まで感染を疑う症状の方からの連絡はなかったようです。今回のような場所や日時、時間帯までを情報公開しての注意喚起に驚かれた人も多いのではないでしょうか。それほど麻しん(はしか)は感染力が強く、重症化や死亡に至るケースもあるので注意が必要ということなのです。
◆ 麻しん(はしか)とは?
一般的に「はしか」と呼ばれる麻しんは、麻しんウイルスによって引き起こされる全身感染症です。風邪やインフルエンザと同じように、感染した人のくしゃみやせき、鼻水または接触によって広がります。さらに麻しんウイルスは、空気中に浮遊する麻しんウイルスを非感染者が吸い込むことで感染するのです。飛沫、接触だけでなく、空気感染するということです。その感染力は非常に強く、麻しん患者1人から、12人~18人が感染するといわれています。コロナウイルスで2人~3人とされてきたので格段に強い感染力ですね。そして、患者さんの約3割が合併症を引き起こし、死に至ることもあるので恐ろしい病気です。感染拡大防止のために、麻しん患者の滞在した場所や時間の情報開示があったのも理解できるわけです。また一度感染して発症すると、一生免疫が持続すると言われていますが、免疫を持っていない人が感染するとほぼ100%発症すると言われています。
◆ 麻しん(はしか)の症状
<前駆期>2日~4日(カタル期とも言い、膜の充血、粘液の過剰分泌などの症状が現れる時期)
感染後に潜伏期10日前後(8~12日)を経て発症。38℃前後の発熱が2~4日間続き、風邪のような鼻水、咳、喉の痛み、全身の倦怠感や筋肉の痛みや、目の充血などが強くなっていきます。乳幼児の場合、下痢・腹痛等を伴うことが多い。また発疹が現れる2日前頃には、頬粘膜に、麻しんの特徴的なコプリック斑と呼ばれる約1mm径の白色小斑点が現れ、発疹出現後2日以内に消えていきます。
<発疹期>3日~4日
カタル期での発熱が1℃程度下がった後、半日くらいのうちに再び高熱(多くは39℃以上)が出て、麻しん特有の赤い発疹が耳の後ろ、首、おでこなどに現れ、翌日には顔面、体幹部、上腕におよびます。2日後には全身に広がり、発熱(39℃以上)は3~4日間続きます。
<回復期>7日~10日
発疹出現後、3~4日間続いた発熱も解熱し、全身状態が改善してきます。ただ発疹は消失するものの、色素沈着がしばらく残ります。 合併症のないかぎり7~10日後には回復します。
◆ 麻しん(はしか)の合併症
麻しんウイルスの怖いところは、感染力が非常に強いだけでなく、患者さんの約3割が肺炎や脳炎、中耳炎等の合併症を起こしていることです。麻しんの二大死因は肺炎と脳炎で、肺炎の合併は麻しん患者の6%、乳児では死亡例の60%は肺炎に起因しています。脳炎は1,000人に1人の割合で起こると言われていて、死に至らずとも後遺症が残るケースも少なくありません。
また麻しんに感染して5年程経って以降に、10万人に1人の割合で、亜急性硬化性全脳炎(SSPE)と呼ばれる中枢神経疾患を発症することもあります。中枢神経に潜んでいた麻しんウイルスが長い潜伏期間を経て発症し、急に日常の行動ができなくなり、異常行動が現れ知能と言語力が低下、進行すると歩行不可能、意識消失、自らで身体を動かすこともできなくなります。
◆ 麻しん(はしか)予防はワクチン接種!
麻しんウイルスの抗ウイルス薬は存在しないので、特別な治療法はありません。発熱に対する解熱剤、喉の痛みに対する鎮痛剤、高熱による脱水症状に対する点滴治療、また、別の細菌感染などによる肺炎や中耳炎を合併した際には抗菌薬投与などの対症療法が中心となります。麻しんは空気感染するので、手洗いやうがい、マスクのみでは予防ができないため、最も有効な予防はワクチン接種であり、接種者の95%以上が麻しんウイルスの免疫を獲得できます。
また、麻しんの患者さんに接触した場合でも、72時間以内に麻しんワクチンを接種することで、麻しんの発症を予防できる可能性があります。また、安易に取れる方法ではありませんが、接触後5、6日以内であればγ-グロブリンの注射で発症を抑えることができる可能性があります。かかりつけ医または医療機関にご相談ください。
◆ 2023年麻しん(はしか)流行か!?
昔、日本では麻しん(はしか)は「子どもの命定め」と言われるほど恐れられていて2008年時点でも1万人以上の罹患者数でした。2006年6月から麻しん風しんワクチン(MRワクチン)の2回接種が開始されたことで、2015年には35人と激減し、世界保健機関(WHO)により日本が麻しんの排除状態にあることが認定されました。ところがその後、海外からの輸入感染により2019年には744人に増加。以降はコロナウイルスが流行し、海外からウイルスが持ち込まれなくなったことで罹患者数は2021年、2022年とそれぞれ6人にとどまっていたところ、今年は渡航制限が解除され2023年6月14日時点で16人となり、流行が懸念されています。
◆ 大人への予防接種の勧め
日本では現在、1歳代と小学校入学の前年に1回ずつの2回の麻しんワクチン接種(風しんとの混合ワクチン)が定期化されています。1回のワクチンでは、わずかながら十分な免疫が得られない、もしくは接種から年数経過により免疫が弱まることがあるためです。ただ定期接種も強制ではないため、必ず受けているとは限りませんし、年代によっては任意接種もしくは1回の定期接種だったため、免疫が不十分の方も多いと考えられます。特に現在51歳以上の方は、自然感染により免疫を獲得できている可能性も十分あるものの、1回も接種していない可能性が高く、23歳~51歳の方は1回のみ接種の可能性が高いので、過去の感染が不明な場合は、抗体検査で免疫が獲得できているか確認することをお勧めします。
また、医療・教育関係者や海外渡航を計画している方も、麻しん(はしか)にかかったことがなく、2回の予防接種歴が明らかでない場合は予防接種を推奨します。
但し、妊娠している女性は接種できず、接種後2ヶ月程度はお腹の中の赤ちゃんへの影響を考慮し妊娠を避ける必要があります。これから妊娠を希望する女性とその家族は、予め予防接種を検討しましょう。
当院でも、麻しん(はしか)の抗体検査やワクチン接種(自費診療)を行っております。詳細はお問い合わせください。
●麻しんの最新発生報告数は、感染症発生動向調査に基づいて定期的に国立感染症研究所ウェブサイト に掲載されます。
~~麻しん(はしか)の豆知識~~
「麻しん」と「はしか」呼び名が2つありますね。一般的によく耳にする「はしか」は「芒(はしか・のぎ)」が由来とされていて、江戸時代に稲や麦などイネ科植物の穂の先に針のように尖った芒(はしか)の堅い毛に触れたように痛痒くなることを「芒い=はしかい」といったそうです。日本の感染症法では「麻しん」と呼ばれ、現在の新型コロナウイルスと同じ5類に分類されている感染症ですが、中国由来で発疹の形や色が麻の実に似ているところから来ています。