皆さんご存知のように、日本人の死因で一番多いのは「がん」です。国立がん研究センターの統計によると2021年に「がん」で死亡した人は381,505人(男性222,467人、女性159,038人)。男性は26.2%、女性は17.7%なので、男性は4人に1人、女性は6人に1人が「がん」で亡くなっているということです。中でも、大腸がんは部位別死亡数男性2位、女性では1位となっています。だからとって、多くの人が大腸がんになるのだから仕方ないと思われますか?「がん」は早期発見がカギとなりますが、実は大腸がんは「がん」になる前の段階で治療ができるのです!
※¹国立研究開発法人国立がん研究センターがん情報サービスhttps://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html#anchor1
◆ AIで大腸ポリープ検出!
現在、がんは不治の病ではありません。がん全体でみても、半分程度のがんは治ると言えます。当然、発見して治療するのが早ければ早いほど生存率が上がりますが、早期がんの段階であれば治癒率は高く、9割方が完治できるのです。大腸がんは、初期のがんであれば内視鏡手術で完治へ導くことも可能なのです。
早期発見においては、内視鏡検査の際に平坦な病変や微小な病変の発見が難しいことが課題でした。そこで活用されたのがAI(人工知能)技術。医療機器とAI技術を組み合わせた「内視鏡画像診断支援システム」が生み出されたことは大きな進歩です。当院では富士フイルム社製のシステム「CAD EYE」を導入しており、大腸内視鏡検査時のポリープなどの病変の検出を支援してくれます。画面の中に病変が映ると病変を枠で囲み、音で知らせてくれます。このシステムは非常に感度が高く、専門医と変わらないタイミングもしくはそれより早く病変を検出でき、検出率向上や見落とし防止につながっています。また鑑別支援モードに切り替えると、非腫瘍性の場合は腫瘍の画像周りの色が緑、腫瘍性の場合は黄色となり、腫瘍/非腫瘍の診断のサポートもしてくれます。この機能も非常に有用性があり、肉眼ではわかりにくい小さな病変に対しても拡大してその範囲を確認でき、腫瘍/非腫瘍の診断が可能。よって、腫瘍性のポリープは大腸内視鏡検査時にリアルタイムで切除することで、がんになる前の段階で治療できるのです。また大腸ポリープの中でも切除する必要がない非腫瘍性のものは切除しないことで患者さんへの負担を減らすことに繋がります。
大腸がんの5年相対生存率(2013-2014年)
ステージⅠ・・・94.5%
ステージⅡ・・・88.4%
ステージⅢ・・・77.3%
ステージⅣ・・・18.7%
国立がん研究センターがん情報サービス「院内がん登録生存率集計」より
https://hbcr-survival.ganjoho.jp/graph?year=2013-2014&elapsed=5&type=c02#h-title
◆ 大腸がんのステージ
早期の大腸がんは、一般的には自覚症状はありません。がんが粘膜の中にとどまっているステージ0の場合や、ステージⅠの大腸がんでも大腸の壁への浸潤が浅いものであれば、取り残しが無ければ内視鏡治療のみで完治します。
大腸がんの進行度を表すステージは5段階。数字が小さいほど、進行度が低い初期の大腸がんで、数字が大きくなるほど進行している状態です。進行度のポイントは次の3つの因子を組み合わせて判断されます。
- 深達度:大腸の壁への入り込みの深さ
大腸がんは大腸の壁の内側にある粘膜に現れ、進行するにつれ壁の奥深くまで入り込みます。
(大腸壁の構造:大腸の内側の粘膜→粘膜筋板→粘膜下層→固有筋層→漿膜下層→漿膜)
- リンパ節転移:リンパ節転移の有無と転移数
体内の老廃物を運ぶリンパ液。リンパ液が通るリンパ管のところどころにはリンパ節があります。リンパ節に転移したがん細胞はリンパ液によって運ばれ、さらに別のリンパ節に転移していきます。
- 遠隔転移:他の臓器への転移
肺や肝臓、リンパ節に転移しやすく、脳や骨等全身に転移の可能性があります。
ステージ0 がんが大腸粘膜内に留まるもの
ステージ1 がんが固有筋層までに留まるもの。リンパ節転移ナシ。
ステージ2 がんが固有筋層の外まで浸潤している。リンパ節転移ナシ。
ステージ3 がんの深さに関わらず、リンパ節への転移を認めるもの
ステージ4 がんの深さやリンパ節転移に関わらず、他臓器への転移を認めるもの
早期がんはステージ0,ステージⅠ。進行がんはステージⅡ~ステージⅣ。
◆ 胃カメラAI画像診断システムの導入決定
人口知能の発達は、私たち人間にとって「職を奪われる」「AIに支配されるのではないか?」等、不安になる要素はありますね。ただ、AIはその動作を決定するデータや決まりに従って、限られた範囲で高速で動作するので、高齢化社会の現代、生産人口が減る社会においては上手く活用することで私たちを助けてくれるツールとなり得るのです。当院では専門医の技術と、先進AI技術を取り入れることにより質の高い内視鏡検査を行っています。このほど、大腸内視鏡の画像診断支援システムに加えて、胃カメラAI画像診断システムの導入も決定いたしました。
私たち人間の免疫細胞は、1日に5000個できると言われるがん細胞と日々戦いを繰り返しています。生き残ったがん細胞はやがて塊となり「がん」になるのです。がんの大きさが小さい早期がんと呼ばれる段階、無症状の段階でのがんの発見ができるよう、医療に携わる者として最善の努力を行ってまいります。どうか、皆さんもご自身の身体のために検診、特にがんの発症リスクが高まる40歳を過ぎたら、定期的に検診を受けて頂けますように切にお願い致します。
●胃内視鏡(胃カメラ):胃に慢性的な炎症をもたらすピロリ菌に感染している、または、感染していた方においては、胃がん発生リスクが高くなるため、1年に1回胃カメラを受けていただくことが推奨されています。特に異常のない方でも2年に1回の胃カメラ検査をお勧めします。
●大腸内視鏡(大腸カメラ):ポリープがある方は1年に一度、ポリープ切除後の方は2~3年に一度、ポリープのない方でも3~5年に一度の大腸カメラによる定期検査をお勧めします。⇒40才以上で毎年施行することにより死亡率減少効果があるとされています。
当院の内視鏡センター(胃・大腸内視鏡検査)
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