ウェアラブル医療機器の現状

「ウェアラブル機器」「ウェアラブルデバイス」という言葉をご存じでしょうか。簡単に言うと、身に着けることができるコンピューターです。例えば「アップルウォッチ」というと、きっと皆さん耳にしたことがあると思います。アップルウォッチは腕時計型ですが、眼鏡型、指輪型、ペンダント型、帽子型、ヘッドホン型などさまざまな形のウェアラブル機器があります。スマートフォンやアプリと連携することで幅広い機能を活用できます。

 

ウェアラブル機器で健康管理

ウェアラブル機器の具体的な機能として、スマートフォンと連携させてメールや電話の送受信、GPS機能、AR※¹を使ったゲームなどがありますが、実は「健康管理」という面で大きな役割を果たします。というのは、身につけていることで移動距離や歩数など活動量の計測、心拍数、睡眠状況などの情報を取得することができるからです。

実際にアップルウォッチを単にデジタル腕時計やスマートフォンのサブディスプレイとしてだけではなく、活動量や心拍の計測機能を使って健康管理をしている人も多いでしょう。同製品の「家庭用心電計プログラム」「家庭用心拍数モニタプログラム」は、昨年(2020年9月)に厚生労働省に医療機器の認定を受けています。
※¹AR(Augmented Reality=拡張現実)ゲームとは、実在する風景にバーチャルの視覚情報を重ね合わせて表示し、現実の世界に情報が加えられたもので、「ポケモンGO」が一例。

 

ウェアラブル機器と医療

ウェアラブル機器は、身につけることで得られる大量のデータを蓄積、分析できることから医療やヘルスケアの分野での期待が高まっています。そして年々、高性能な機器が開発されるにつれ、実際に医療やヘルスケアの分野で活用する動きが加速しています。社員にウェアラブル機器を配布して、自己の健康管理の促進を行う企業や、ウェアラブル機器による計測データを診察に使う病院も増えてきました。

また、海外では既にさまざまなウェアラブル機器が医療分野に活用されています。血糖値を測定するコンタクト型機器、妊婦さんのお腹に貼ることで母体の心拍数や子宮の動きをモニタリングするパッチ型の機器の導入など。とりわけアメリカでは、オバマ政権時代に医療分野IT化が推進されたこともあり、ウェアラブル医療機器の活用も進んでいると言えます。例えば、指輪の内側のセンサーで体温、心拍変動、睡眠、運動のデータを収集してスマホへ送信、睡眠の質や活動量などが数値化、体調を目視することができる指輪型のOuraRing。睡眠時も装着ができるため24時間のデータ計測が可能で、直接指の肌に装着するため、より正確なデータの取得ができるとされており、カルフォルニア大学サンフランシスコ校では、OuraRingで収集されたデータからコロナウィルスの発症、進行、回復病気の症状を予測しようという研究が始まっています。この研究が進めば無症状の段階から感染を予測できることになり、ますますウェアラブル機器への期待が高まりますね。

 

ウェアラブル医療機器の有効性

もっと身近に感じられるウェアラブル医療機器の有効事例をご紹介すると、例えば、家で発作が起きて苦しくなった場合。少し休むと発作が治まり、落ち着いた状態で病院に行って検査した時には異常がなく十分な診断ができないことがあります。この場合でもウェアラブル機器を身につけていれば、発作時の心電の波形が記録されており、正しい診断ができるということです。

また、コロナ禍で飛躍的に増えたオンライン診療においても、ウェアラブル機器から送信されたデータは患者さん自身が把握できていない身体の状態や、自身の状況を言葉で上手く表現できない場合、数値として客観的に示されるデータは診療の手助けとなります。コロナの終息が訪れても、「新しい生活様式になる」「ニューノーマルの時代」と言われるように、オンライン診療は対面診療と組み合わさって引き続き利用され、ウェアラブル医療機器は重要な役割を担っていくことになるでしょう。

合わせて医療現場では従来の紙ベースでのデータ管理ではなく、デジタルデータを共有し、分析が行われ、新たな治療の研究に役立てることもできます。

 

ウェアラブル医療機器促進の必要性

ウェアラブル医療機器を活用することで正確な診断が可能になること以外にもう一つ、別の観点からウェアラブル機器のようなデジタル技術の活用促進の必要性について触れたいと思います。

コロナ禍の現在も毎日のように医療現場のひっ迫が報じられていますが、コロナウィルスが終息すれば医療現場も元通り、というわけではないのです。なぜなら、日本の人口の中で一番多いと言われる「団塊の世代」が75歳以上の後期高齢者となるのが2025年。この時点で国民の3人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上ということになり、超高齢化社会に突入する「2025年問題」が目前だからです。介護の需要はますます高まり、既に介護業界の人手不足は叫ばれていますが、当然医療現場もひっ迫します。また、医療費を支える64歳未満の生産年齢人口は減少の一途をたどり、2040年には1.5人で1人の高齢者を支えなければならず現役世代の負担はさらに大きくなります。

参照:内閣府「令和元年版高齢社会白書」概要版 第1章 高齢化の状況
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2019/html/gaiyou/s1_1.htm

 

生産年齢人口が減ることで起こる医師不足に財源不足。2025年問題を前に私たちは、デジタル技術を上手く活用し、必要な医療を提供できるように努力していかなければなりません。

ウェアラブル機器の医療現場での活用は、診断や治療の精度を高めるだけでなく、検査における省力化により医師や看護師の負担軽減、人件費設備費の削減にもつながります。また、異変を早期に発見できることで病気になる前に予防ができ、早期治療による患者さんの負担、医師の負担も軽減されます。

もちろん、AIの進歩やデジタル技術が現時点で万全であるとは言えず、導入にあたりテストやウェアラブル医療機器を身につける患者さんへのサポートは必要ですが、日本だけでなく、世界全体として抱えている高齢化社会を踏まえると、ウェアラブル医療機器の活用はもはや必然と言わざるを得ないでしょう。

必要な医療を必要な人へ、より良くしっかり届けることが可能な社会の実現のためにも、当院でも積極的に取り入れていきたいと考えています。

 

 

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