肝臓が悪いといえば「たくさんお酒を飲むからでしょ」と思っていませんか?
もちろん、常習的な飲酒、大量飲酒による肝臓障害はありますが、実はアルコールを少量嗜む程度でも肝臓が悪くなることがあります。
また肝臓は「沈黙の臓器」と言われるように、一部が壊れて多少の負担がかかっても他の部分がカバーして働いてくれるので、自覚症状がなく気づかないことが多いのです。
◆ 脂肪肝とは
まずは脂肪肝のお話から。
肝臓に脂肪が溜まった状態を脂肪肝といいます。
フォアグラと言えばイメージしやすいでしょうか。
世界三大珍味のフォアグラはガチョウやアヒルに餌をたくさん与えて肝臓を肥大させたものですから。
通常、肝臓内の中性脂肪の割合は3~4%程度ですが、30%以上になると脂肪肝という診断になります。
アルコールの飲みすぎによる脂肪肝はアルコール性脂肪肝、アルコールをあまり飲まない人に起こる脂肪肝を非アルコール性脂肪性肝疾患といいます。
ん?アルコールで脂肪が溜まる?と思う人もいるかもしれませんが、アルコールは中性脂肪を合成するため、内臓脂肪型の肥満の原因になります。
そして肝臓にも脂肪が溜まり、脂肪肝から肝炎などの肝臓病になるので、お酒をたくさん飲む人は注意が必要なのです。
そして、お酒を飲まない人の脂肪肝は“非アルコール性”と言っても、アルコールを全く飲まないというわけではなく、男性30g/日未満、女子20g/日未満(※1)と定義されています。
ビールでいうと、男性は大瓶1本、女性は中瓶1本くらいなら非アルコール性ということになります。
肥満や糖尿病でインスリン※2の働きが鈍くなっている人は、肝臓に脂肪がたまりやすくなり、脂肪肝になるのです。
非アルコール性脂肪性肝疾患の人の割合は健康診断を受けた人の20~30%にもなります。
※1.エタノール摂取量 NAFLD/NASH診療ガイドライン2020
※2.インスリンは血糖値を下げる働きをするホルモンです。
◆ アルコールを飲まなくても脂肪肝は進行する?
近年、アルコールを飲まない人も脂肪肝から肝硬変や肝臓がんに進行することがわかり、注目を浴びています。
非アルコール性の脂肪肝のほとんどが脂肪肝の状態から進行しないものの、10~20%は肝炎の状態から肝硬変や肝臓がんへ徐々に悪化するもので、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)といいます。
食の欧米化に伴って肥満人口が年々増加している中、非アルコール性の脂肪肝の人も増え、肝硬変や肝臓がんに進行する非アルコール性脂肪肝炎(NASH)も増えているのが現状です。
進行の順序
脂肪肝→脂肪性肝炎→肝硬変→肝臓がん
※自覚症状がほとんどないため、自分では気づきにくい。
NASHの原因
(1)肥満 (内臓脂肪蓄積) (2)糖尿病 (3)脂質異常症 (4)高血圧症 (5)急激な体重減少や急性飢餓状態 (6)薬剤 (7)完全静脈栄養
※ただし、ウイルス性肝炎(B型、C型)、自己免疫性肝炎、薬物性肝障害などは除外
検査
脂肪肝の有無:腹部の超音波検査、CTなどの画像診断
アルコール性、非アルコール性:血液検査と問診
問診内容:飲酒歴・生活習慣病の有無(糖尿病、高血圧、脂質異常症)・服用薬・体重歴
※NASHの可能性が高いと判断された場合は入院して肝臓の組織を調べる検査(肝生検)が必要になります。
お酒を飲まないからといって安心できない非アルコール性脂肪肝炎(NASH)。放置すると気づかないうちに病気が進行してしまいます。上記の原因に挙げたように、NASHの背景には肥満が密接に関わっています。以前にも「肥満は万病のもと」というお話をしましたが、肥満度の指標となるBMIの数値が25以上になっていないかチェックしてみて下さい。そして、予防の観点からも生活習慣の見直しを図るとともに、定期的に検査を受けて頂きたいと思います。